密猟者を取り締まるだけでは、ゾウを本当に守ることはできません。
野生動物と同じ土地で生活する地元の人々の協力を得るため、マサイが生活する環境を理解し、
自然と共に彼らの生活が向上していくことが共存の鍵になります。
アフリカゾウ・マサイ・森の共存を目指して始まったのが、ニャクエリの森共存プロジェクトです。
メイズ(とうもろこし)はアフリカの広範囲で主食とされていますが、ゾウの好む食べ物でもあります。野生動物保護区付近の村やゾウの移動ルートにある村のメイズ畑では1年の収穫を一晩で食い荒らされることもあり、村民にとって深刻な問題になっています。そのためゾウに対して害獣意識が強く、密猟に加担する村民さえいます。付近の村民が遊牧から定住へとライフスタイルを変化させたこともあり、昔はなかった新たな問題として深刻化しています。
村とマサイマラ野生動物保護区との境界線沿いに位置するニャクエリという森は、昔から地元のマサイにとって神聖な森であり、ゾウにとっても住処や出産場所、食糧庫となる大切な森です。しかしライフスタイルが変化し現金収入が必要になったマサイはいま、この森を伐採し木炭を作って収入にしています。この森は野生動物にとって大切な生息地域であり、また地元の村民にとっても重要な森ですが、現金のために森林伐採が加速して大きな問題になっています。
ゾウはミツバチを本能的に嫌がり(King, L. 2010, 2011, 2014)、避ける行動に出ることが研究結果から判明しています。その研究から蜂箱を畑の周辺にフェンスの様に設置するアイディアが生まれました。また、蜂は森の木々の花の蜜が必要なので、森林保護意識向上にもつながります。アフリカゾウの涙は対象地域の村民に蜂箱をレンタルし、養蜂技術を伝えるプロジェクトを行っています。いずれはそれぞれが自立した養蜂家になり、森林伐採をしなくてもはちみつから収入が得られることを目標としています。
村民のモチベーションを維持するため、養蜂プロジェクトの他にも森の再利用プロジェクトを始めようと村民たちと話し合い、スタートしました。それは森の床どこに生えている木の苗を活用したミクロビジネスです。これらの苗のほとんどは木になる前に踏みつぶされたり食べられたりして成長できません。村民は苗の目利きができるので、それらの苗を森から収穫し、少し大きくなるまで育てて町で売る、または地元の小学校と共に植林をして森を再生していく、という二つの取り組みをはじめました。